孤独死予備軍ひきこもり日記

ひきこもりが、日々の雑感を綴ります。

ショージとタカオ

「ショージとタカオ」文芸春秋刊を読む。ショージは、桜井昌司さん。タカオは、杉山卓男さん。二人は、1967年に布川事件の容疑者として逮捕され29年間もの間、国家権力の囚われの身となる。この本の著者は、二人が、刑務所から仮出所してから再審請求が認められまでの姿をドキュメンタリーを通して見つめていく。事件の真相を解明するのが、目的ではない。ふつうのおじさんになりたいと、悪戦苦闘しながら再び社会の中で生きなおそうとする有り様を、温かく時にはユーモアを感じさせながら描いていく。布川事件は、2011年に再審無罪が、決定される。雪冤が果たされるまで、44年間ももかかるとは、改めて冤罪の理不尽さを感じさせられる。この事件は、何ひとつ二人が犯人であることを証明する客観的証拠がない。事件現場付近で、被告を目撃したというあいまいな証言と自白のみである。自白もアリバイを否定するために警察官の偽計によって作成された。二人は、出所して、いくつもの苦難に遭遇する。桜井さんは、地元の人たちが、自分を犯人だと思っているような差別的な振舞いに戸惑う。しかし、再審請求に向けて仕事にも就き、結婚までする。このように仮出所してから、苦労を厭わず新たな人生を切り開いていく姿は、何よりも無実性を証明しているのではないだろうか。仮に真犯人であれば、ドキュメンタリーの撮影と分かっていても、どこか不自然な部分が、露呈してしまうものである。著者は、法律的な知識もなく、裁判にもあまり関心がない。しかし、冤罪に巻き込まれながらも、懸命に生きようとする人間の強さを表現することに成功している。