孤独死予備軍ひきこもり日記

ひきこもりが、日々の雑感を綴ります。

秋吉久美子の魅力

秋吉久美子 調書」筑摩書房を読む。この本は、映画評論家の樋口尚文氏が、女優秋吉久美子へのインタビューを収録したものである。プッツン女優のイメージが、強いが、本書を読めば、それが、いかに間違ったものであるかを再認識させられる。とにかく、この秋吉久美子という女優は、非常に頭が良い。高校は地元の進学校で、文芸部の部長になって、早熟な私小説を書いている。藤田敏八監督と組んだ、「赤ちょうちん」、「妹」「バージンブルース」が、しらけ世代のアイドルとして、決定づけた。ファムファタル的な魅力と、肢体の美しさは、その当時の若い男性を虜にした。ただ、しらけ世代のアイコンとして、彼女が演じていたら、長きにわたって映画界で生き残って来れなかっただろう。連合赤軍永田洋子を引き合いに出して、次のように発言している。「私たちより上の世代の、多くの人たちが時代との切り結び方を間違ってしまった。私は、間違えずに何かをしたい。だけど力みかえって何かをなそうとすると、人間は間違ってしまうらしい。それなら時代の空気を映して表現しながらも、同時に客観的な証人になりたい。そこがマスコミ的には、元祖シラケ派という要約になったのでは。」これほど、確固とした哲学を持った女優さんだとは、全く思わなかった。80年代以降も、名だたる映画監督の作品に出演していくが、自らのポリシーを貫きながらも、うまい具合に、役の幅を広げていく。本書の中で、数多くの作品の撮影時のエピソードを昨日のことのように覚えている。いかに、ひとつひとつの作品に真摯に向き合っていたかを物語る。「演じる」ことは、いったい何なのだろうか。自分ではない、人間になりきる。シナリオを暗記して、撮影現場に入る。映画の撮影によって、虚構空間が構成され、ある程度の演技力のある役者であれば、それなりに、鑑賞に耐え得る。しかし、それだけでは、物足りない気がする。役者自身の持つ人間的魅力が、与えられた役柄とシンクロすることによって、より一層深みが増すのではないかと思う。今の芸能界で、女優と呼べる資格の人間が、幾人存在するだろうか。基礎的な演技を身についておらず、プライドだけは高い。もしかして秋吉久美子は、最後の大女優かもしれない。