孤独死予備軍ひきこもり日記

ひきこもりが、日々の雑感を綴ります。

昭和の劇・笠原和夫

「昭和の劇 映画脚本家 笠原和夫太田出版が、復刻される。「仁義なき戦い」、「博奕打ち 総長賭博」など東映やくざ映画シナリオライターとして名を馳せた、笠原和夫の作品論に迫った名著である。「仁義なき戦い」の脚本を書く上で、緻密な取材を重ね、完成された作品を見て、激怒した、エピソードはあまりにも有名だ。個人的な実感として、「仁義なき戦い」よりも、「県警対組織暴力」の方が、作品の完成度が、高いように思える。「仁義なき戦い」は、日本映画の名作で、今も新たなファンを得る程の名作であることは、疑いない。しかし、細部に粗削りな部分があるように思えてならない。おそらく、戦争への笠原和夫深作欣二監督の思いの違いが、如実に現れたのではないだろうか。笠原和夫は、昭和2年生まれで、実際、大竹海兵団に入隊している。その経験が、仁義なき戦いのモデルとなった人物との信頼関係を築くことになる。また、旧制中学の時に、虚弱な体格で、いじめられていたのを、後にやくざの幹部になる同級生に助けてもらったという原体験が、大きく影響している。初期の作品群では、仁侠道を守る、昔堅気のやくざに、自らの美学を仮託したのだろう。その集大成的な作品が、「博奕打ち 総長賭博」である。この作品は、三島由紀夫も絶賛した。笠原和夫は、天皇制に対して次のような批判をしている。「天皇は退位するべきだあった、出来れば自決すべきであった」と。一見して、三島由紀夫の思想と相いれない。しかし、海軍二等兵だった頃を自らの青春と言い、美化する意味では、天皇主義者だったのではないだろうか。笠原和夫のシナリオ作りは、徹底している。頭の中で、組み立てていく手法を取らない。シナリオハンティングし、自らが、映画を撮るような、作品構成も求めていく。北野武監督の「あの夏いちばん静な海」に11箇条にわたって、脚本の不備を指摘したことは、何よりの証である。北野武監督の演出術は、現場での即興性を重んじるため、シナリオが、不要と言っても過言ではない。シナリオを蔑ろにされる、笠原和夫氏は、それが気に食わなかったのだろう。北野武監督のような天才を除いて、やはり、シナリオが、映画の出来ばえを決める。そういった意味では、笠原和夫は、日本映画界に名を残す、天才的なシナリオライターであった。