孤独死予備軍ひきこもり日記

ひきこもりが、日々の雑感を綴ります。

ドキュメント精神鑑定

刑事裁判において、被告人の罪責を問うことができるかを確かめる精神鑑定。よく耳にするが、謎のベールに包まれている。その謎を解きほぐしてくれるのは、「ドキュメント 精神鑑定」林幸司著、洋泉社新書yである。実際に数多くの事件の精神鑑定を引き受けてきた著者だけに、説得力がある。世間を震撼させた、動機不明のような事件が起きると、実際に、その被告人と対面していない、マスコミの御用精神科医が、憶測で発言してしまう。一般人は、解釈を与えてもらうことによって、不可解の事件を分かったつもりになってしまう。あるいは、「こころの闇」とういう陳腐な言葉によって、事件を片付けてしまう。著者は、そんな風潮に警鐘を鳴らす。「精神鑑定は、純粋素朴な精神医学の法律への応用に過ぎない。逆行催眠で幼児期のトラウマを探し出すというような心理サスペンスを地で行く派手な展開などいっさいない。あるのはただひたすら地味な問診と鑑別診断の繰り返し」と非常に謙虚な態度を取っている。生活史をじっくり聞きだし、犯行直前の精神状態、犯行に至る直接的な動機などを視野に入れながら、鑑定していく。本書では、著者が、担当した事件を、具体的に紹介している。一番印象に残ったのは、一流大学を卒業した男が、通り魔を引き起こした事件。仮名となっているが、1999年に発生した下関通り魔事件であることに間違いないだろう。被告人は、対人恐怖症を抱えて、仕事を転々とする。犯行直前には、他人の視線が気になって、外出するのが、怖く、近所のドアが閉まる音、エンジンをふかす音、など他愛もないことに執着し始める。そして、凶行に及んでしまう。争点となったのは、神経症圏の対人恐怖か、精神病圏の妄想かということである。被告人は、長年、対人恐怖を克服しようと、努力していた。森田療法を掲げた病院にも入院したことがあった。著者は、被告人との面談を重ね、「回避性・妄想性人格障害」と診断する。妥当な判断だと思う。興味深いのは、著者のみならず、大半の精神科医が、精神病圏の病名を下している点である。森田療法専門病院の医者は、対人恐怖および視線恐怖と神経症圏の域を超えないレベルと判断している。裁判員制度発達障害のある男が、姉を殺し、第1審で、求刑を上回る判決を下された。しかし、第2審では、原判決を破棄して、減刑した。裁判員が、発達障害の知識に無知であったために、このような事態を招いた。今後の刑事司法で、ますます「精神鑑定」の果たす役割が大きくなるだろう。