孤独死予備軍ひきこもり日記

ひきこもりが、日々の雑感を綴ります。

精神病棟の二十年・松本昭夫

「精神病棟の20年」松本昭夫著、新潮文庫を読む。著者は、統合失調症患者である。最近は、統合失調症患者が、自らの体験を語ることが当たり前になってきている。「べてるの家」や、ハウス加賀谷の「統合失調症がやってきた」などが、その最たる例だろう。精神分裂病という病名も改まり、この病気に対する偏見も無くなりつつある。薬物治療が、著しく発達し、社会復帰も可能になった。しかし、いまだ、人類の普遍の病気で、発症原因が、完全に解明されたわけではない。多くの精神科医が、この病気に関心をもつ所以だろう。当事者が語ることは、非常に良いことであるが、誇張された表現が目立つものもあり、その信憑性は、保証できない。特に、「べてるの家」を無条件に評価するのは、危険なことのように思えてならない。本書は、40年近く前に書かれた。松本昭夫というのは、勿論ペンネームだろう。しかし、偏見や差別の激しかった時代にここまで詳細に、自己の体験記を書くことは、画期的であったに違いない。完全に病気から回復していないので、支離滅裂な部分もあり、読みづらい部分もある。逆に、それが、精神分裂病者の内面を知る上で有効な役割を果たしている。昭和31年、大学受験を控えた21歳のに発症する。以後、24年間もうかがわせる、入退院を繰り返す。著者の場合、自分が好きになった、女性に対する妄想や幻覚が主となって、症状が出始める。最初の入院のきっかけは、好きな女性が、他の男と関係を持っていると思い込み、登山ナイフで2人を傷つけてしまう。この件は、精神障害者は、危険であると誤解を与えてしまいかねない。しかし、この著者の妄想や幻覚は、何の前触れもなく生じるのではない。独特の思考回路があり、極度のストレスに晒されると、歯止めが利かなくなってしまう。また、高度な文学的表現も見られて、知的な面も窺わせる。ある精神科医は、統合失調症患者の、妄想や幻覚は、ステレオタイプ的なもので、予測できると豪語していた。この精神科医は、全く何も分かっていない。これほど、最新医療の下にあって、全ての統合失調症患者が、寛解するわけではない。やはり、患者それぞれの数だけ、症状も多様ではないだろうか。