孤独死予備軍ひきこもり日記

ひきこもりが、日々の雑感を綴ります。

西川美和監督の「すばらしき世界」の弁護士のモデルである庄司宏弁護士

西川美和監督の「すばらしき世界」が、毎日映画コンクールで日本映画賞を受賞した。原作は、佐木隆三の「身分帳」である。この作品は、長年にわたって、法廷で繰り広げられる人間ドラマを描いてきた、佐木隆三の集大成的な作品となっている。刑事裁判マニアという人種が存在する。そうした人は、ただの好事家で、裁判を傍聴して、事実を羅列するだけで、被告人の人生について肉薄する、人間観察の目を持ち合わせていない。佐木隆三は、被告人の生育歴や心理状況を綿密に調べ、犯罪を犯さざるを得ない、被告人の哀しみにまで共感していく。そうした所が、他の作家と一線を画す。映画「すばらしき世界」の脚本を制作するにあたって、西川美和監督は3年も費やしている。行政や刑務所を取材して、服役経験のある人物や、反社会的勢力から引退した人物から話を聞くなどしたようである。そこまで、原作の「身分帳」に魅せられたのだろう。ただ、原作も映画も、主人公を支える弁護士の描き方が不十分のように感じた。この弁護士は実在の人物で、庄司宏という。庄司宏弁護士は元々、ロシア語に堪能な外交官であったが、敗戦後に米ソが絡んだスパイ事件に巻き込まれて失職。50代になって、弁護士に転じると、救援センターの弁護人として活躍するようになる。救援センターとは、新左翼や労働運動で逮捕された人たちを支援する組織のことである。生前の庄司宏弁護士は、社会主義に理想を求めていた。「すばらしき世界」で役所広司が演じた男のような人たちの社会復帰を、奥様のひろ子さんとともに、見守っていたそうである。「すばらしき世界」の主人公のように、刑務所から出所しても社会になじめずに、周囲と軋轢を起こしてしまう人間は多いと思う。刑務所にしか居場所を見いだせず、小さな犯罪をくりかえす、累系犯を社会的にサポートするシステムが必要ではないだろうか。純粋な正義感だけで、弱い人たちを助けるために、弁護活動していた庄司宏弁護士のような人はもう表れないないだろう。