孤独死予備軍ひきこもり日記

ひきこもりが、日々の雑感を綴ります。

映画「鬼火」 激し過ぎる男の暴力的情念を描き 「ソースの2度漬け禁止」など大阪的ネタ満載 主演の原田芳雄が格好良すぎる

1997年に公開された「鬼火」という映画を見て、私は感動で打ち震えた。もし、好きな映画のベスト3を選べと言われたら本作は、絶対外せない。元々、子供の頃から映画が好きであったが、本作を見て、大学時代に、映画関係の仕事をしたいと思っていたが、果たせぬ夢となっていまった。とにかく、本作は、海外でも通用する作品でありながら、全く認知度がない。ストーリーは、原田芳雄演じる、伝説のヒットマンと呼ばれた男が刑務所から出所して、再び愛する女のために、銃を持つというありふれたやくざ映画のように見える。しかし、凡百のやくざ映画は、実際のやくざの抗争劇を下敷きにしていて、単なる「やくざごっこ」にしか過ぎない。原田芳雄演じる国広というやくざは、中年で工事現場の力仕事ができない。仕事探しで苦労しようやく、奥田瑛二演じる頭の切れるやくざのお抱え運転手となる。その奥田瑛二が、行きつけの高級クラブのピアノ弾きの女性と国広は恋に落ちる。ピアノ弾きの女性は、奥田暎二の配下の組員に酷い仕打ちを受けた過去があり、国広は、彼女のために再び動き出す。「鬼火」は、名シーンが非常に多い。普通のおっさんにしか見えない国広が、やくざに銃を突きつけられるが動揺せず、逆に銃を奪い返して、「ほんまに、人、殺す時は、こうっやて黙って撃つんです」と言うシーンがある。原田芳雄という役者の個性が相乗効果を成して、まるで、「本職の極道」を体現している。仕事探しで、チャンバラトリオ南方英二演じる工場長と面接のシーン。国広は、極道と刑務所暮らしのために履歴書が書けない。そこで、前職で働いていた場所として「大阪印刷所」と書く。南方英二は、「大阪印刷所って何人ぐらいの会社やったん」と聞く。「大阪印刷所」は、もちろん刑務所のことである。この原田芳雄南方英二のやり取りは、ユーモラスの中に悲哀がある。国広が新世界の串カツ屋で、店主から「ソースの二度漬け禁止やで」と注意されるシーンは、ベタな大阪で、監督が関西人であれば、カットしていたと思う。ラスト、国広は、宮沢賢治風の又三郎の一節「どっどど どどうど どどうど どどう 青いくるみも吹きとばせ すっぱいかりんも吹きとばせ」とつぶやきながら、女の仇の男を射殺する。パトカーに乗せられて、Ⅴサインする国広。そして、国広を失って、川辺を犬を連れて歩く女の虚脱感。ベニスの舟歌が何とも言えないぐらいせつない結末にマッチしている。原田芳雄は、見事に新しいやくざを演じきった。静謐な中にある、抑え難い暴力衝動。ともすれば、やくざ映画は、「大声を張り上げたり、怖い顔で凄ませたり」。ビートたけしの「アウトレイジ」なんかは、その最たるものであった。惚れた女のために、今度「人を殺せば、死刑になる」ことが分かっていながら、銃を手にする男が主役の場合ともすれば、ナルシシズムに陥りがちである。しかし、「鬼火」は、そうしたものを一切排して、まるで破滅に向かうことを宿命づけられた男の業を描いている点では、異色のやくざ映画であると思う。