鍵山秀三郎というイエローハットの創業者がいる。鍵山秀三郎は日本を美しくする会の代表であり、素手で便器に手を突っ込んで掃除をすることで有名である。致知出版社という出版社から数多くの本を出版している。この致知出版社は中小企業の社長たちが読むための自己啓発本を扱って、かなりの売り上げがある。鍵山秀三郎は掃除をすることによって人の道までも説く。確かに、身のまわりのゴミを拾えないような「ビジネスパーソン」はたとえ仕事が出来て、優秀であっても人間としての資質を疑ってしまう。そういう意味で鍵山秀三郎の主張は一見して正論のように感じられる。しかし鍵山秀三郎が社会的地位がなく、ただの普通のおじさんであれば、どうだろうか。ただ頼まれてもいないのに、道に落ちているゴミを掃除してくれる奇特な人と少しばかりリスペクトされるだけではないだろうか。つまり「後付け」で鍵山秀三郎は掃除をしているのである。「自分は不遇な時代から掃除をしてきた。だから社会的地位を得た」と自らの成功を自慢しているのである。価値観の押し付けも甚だしい。掃除の仕事は一般的に3Kと呼ばれて敬遠される。そうした人にとって鍵山秀三郎のやっていることは失礼ではないだろうか。鍵山秀三郎は「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の代表発起人に名を連ねている。日本会議の主導の元憲法改正をめざす極右団体である。評論家の佐高信は鍵山秀三郎らのやっている掃除は「自らが汚いことをしてきたことに対する禊ぎである」と批判していた。全くその通りだと私も思う。企業のトップに立つ人間は汚れ仕事もしてきている。すべての人間がそうとは断言できないが、やはり「金儲け」はきれいごとだけで済まされないものである。「自らの罪」を掃除をすることによってご破算になると思っているように感じられてならない。それにしても致知出版社という出版社はえげつない商売をしている。歯の浮くようなきれいごとを並び立て、空疎で中身のない「自己啓発本」を大量に出版して売りつける。偽善というありきたりの言葉では批判しきれにほど質の悪い連中たちだ!