毎日新聞の高橋源一郎の人生相談のコーナーが人気があって書籍化されたほどである。私はあまり注目していない。何故ならば、ピント外れの回答が偶にあるからだ。しかし基本的に高橋源一郎は真摯に答えている。本日の相談と高橋源一郎の答えが非常に面白かった。「夫が陰謀論にはまっています。1日スマートフォンで動画をチェックしたりして情報収集している」。「一体私はどうすれば良いのでしょうか」という趣旨の質問。これは「反ワクチン」を提唱する団体や参政党の事を新聞の人生相談を通して、批判した秀逸な内容だと私は考えている。高橋源一郎の答えは次のようなものである。「ほとんどの人間は何かにとりつかれて生きている」「天上には神様がいて、善行を積めば、天国に行ける」とか「いい大学に行って、いい会社に入れば幸せになれる」とか。「この国を愛することのできない人間は非国民である」とか。興味がない人間にとっては、そんなことは「陰謀論」である。違いは、「実害があるかどうか」だけである。宗教団体に献金する訳でもなく、「推し」のグッズを買いあさる訳でもなく、金のかからない趣味に出会っただけ。「あなたは自分の人生のことだけを考えてください」というもの。この高橋源一郎の答えは素晴らしと私は思う。人間はとかく「幻想」を抱いて生きるものである。精神病患者の「妄想」と一線を画くし、多かれ少なかれ人間は「幻想」を持たなければ、自らのアイデンティティーを維持できないのではないだろうか。もし「幻想」を持たない人間がいれば、絶えず「コンプレックス」に苛まれるか、虚無的に生きるかのどちらかである。そういう意味で「幻想」は人間にとって必要不可欠なものだ。高橋源一郎の答えが素晴らしいのは、くだらない質問を「人間存在」にまで昇華して、答えている点である。さすが作家先生である。感受性の鋭さはやはり凡人をはるかにしのいでいる。この人生相談の企画は、「反ワクチン集団」や「参政党」などを批判するために立てられたものだと私は思えてならない。