先日BS12で「息子」という映画を再放送していた。この映画を私はもう何回も見た事があるが、もう一度見直した。主演は三国連太郎、永瀬正敏、和久井映見。東北に住む父親が故郷を離れて東京に住む子供たちの所を訪ねる。子供たちはそれぞれの日常を送っていて、孤独を感じる。老いや家族とは何かを問う、いかにも説教じみた山田洋次監督の映画である。私は山田洋次監督が大嫌いだ。国民的アイドルの「男はつらいよ」シリーズなど最後まで見たことがない。山田洋次監督の映画は、はっきり言って「差別映画」である。一見して、ヒューマニズムに溢れたように感じられるが、巧みに「社会的弱者」を侮蔑している。山田洋次監督について論じると長くなるので割愛する。「息子」という映画で卓越した存在感を放っていたのは、主演の三国連太郎ではなく確実に田中邦衛である。この映画でも田中邦衛は労働者を演じている。永瀬正敏と一緒の働くトラック運転手役である。絶えず、大声で社会への愚痴をこぼしているのである。交通渋滞で前の車に大学生が乗っていた。その大学生たちはサーフィンを楽しみに海を行く。田中邦衛は大学生たちに向かって怒鳴るのである。口癖は、「政治が悪いんだよ。大企業ばかり儲けさせて、俺らは貧乏」と。そして後ろのトラックに当てられて、むち打ちになるという設定。この映画を見た人でないと、分かりにくい。とにかく田中邦衛を見ているだけで面白いのである。山田洋次監督作品で最も印象に残っている田中邦衛の役と言えば、学校の「イノさん」である。夜間学校を舞台に、在日朝鮮人のオモニや知的障害者、不登校の子など学校に行きたくとも行けなかった人に人間模様を描いた感動のドラマと評価されている。しかし「悪意」に満ちた、吐き気のする映画でしかない。田中邦衛は竹下景子が演じる先生を好きになってしまう。「字が書けなかった」イノさんは、三角定規を当てながら、覚えたての「ひらがな」でラブレターを書く。ラブレターをもらった竹下景子は西田敏行に相談する。そして西田敏行は田中邦衛演じるイノさんにその事を打ち明ける。イノさんは全く「大人の恋愛」あるいは「大人の人間関係」が理解できない。酔いつぶれ、行き場のない怒りを大声で、「これでも同じ人間かよ。あんたら休んでも給料もらえるけれど。こっちは、おけらよ」と叫ぶ。その声がイノさんの最後の言葉になった。イノさんは長年肉体を酷使して、がんになって死ぬ。ラストシーンは生徒たち全員でイノさんの人生を振り返りながら、「幸せ」とは何かを西田敏行と生徒は考えあう。何と、欺瞞と悪意の映画であることか!イノさんのように社会の最低辺で生き、家族のない孤独な男を山田洋次監督は上から目線で差別しているのである。どうもその辺の当たりが普通の人には理解できないようだ。とにかく田中邦衛は労働者役が似合う。私生活では全く別人と言われている。そういう意味において田中邦衛は虚構を演じる名役者である。