孤高のグルメが映画化された。松重豊自身が監督と主演を務める。今回の映画版の音楽を担当するのは、松重豊と40年前に一緒にアルバイトをしていた甲本ヒロトである。孤高のグルメは超人気番組である。私はあまり好きではない。しかし松重豊の演技力には昔から注目していた。松重豊がブレイクして、一般の人に知られるようになったのはごく最近である。それまで売れない時期が非常に長かった。ただその演技力は卓越したもので、一部の映画マニアには有名であった。Ⅴシネマにも頻繁に出演していたが、紋切り型のやくざを演じるのではなく、一癖も二癖のある屈折したように演じた。こういう俳優は現在の映画界において非常に少ない。松重豊は三谷幸喜の劇団出身であるが、今売れ子になった「サンシャイボーイズ」出身の俳優とはまた違う感じがしてならない。毒があるのである。もっと言えば、他の俳優が陽であるなら、松重豊は陰である。そういった意味で、孤高のグルメの松重豊は今ままで彼が演じてきた役とは全く違う。松重豊は映画監督を志望していた。そして今回「孤高のグルメ」を撮ることで、夢がかなったのである。最近俳優が自ら監督を務めることが非常に多い。しかしそのどれもが、駄作で失敗している。おそらく演じると演出をする事は全くの別物であることを忘れ、独善的な撮影をしてしまうからだと私は思う。その点勝新太郎は非常に良質な映画を撮った。日本映画史において勝新太郎の作品は評価されるべきだ。松重豊がバラエティー番組に出演するとき、淡々と喋る姿を見て、私は良い印象を持つ。俳優がバラエティー番組に出演すると、「キャラ」を演じて、わざとらしい。「素の自分」を見せるのが嫌のなであろう。そのような状況で松重豊は自然体で話す。バラエティーと映画やドラマを区別している。そして「自分を必要以上に良いように見せようとする打算」がないのである。こういう俳優は稀である。俳優松重豊の挑戦はまだまだ続くであろう。