「ザ・ノンフィクション」というフジテレビの番組の再放送で新宿2丁目で深夜食堂を54年営業して、ゲイやおねぇから慕われた名物ママの半生をたどった回を見て印象に残った。TBSで小林薫が演じるテレビドラマ「深夜食堂」にはまっている事もあって惹きつかれるように最後まで見てしまった。この喫茶店は、クインという名で万博の次の年から営業していたが、名物ママと旦那さんの体調悪化によって店を閉める事を決意する。名物ママと客のやり取りが非常に人間臭いのである。歯に衣を着せぬ物言いで、口は悪いのであるが、このママさんは愛情を込めて客たちに接するのである。そう意味においてドラマ「深夜食堂」の地を行っているといっても良いだろう。新宿2丁目と言えば、ゲイやおねぇたちの街である。客の大半がそうした人々であるが、中には色々な事情を抱えた人がいる。最も強烈だったのは、女装が趣味の中年男である。年齢も職業も不詳。ただ踊りのイベントに参加する合間にこの喫茶店に寄るというだけ。ママさんは深く詮索しない。しかし「この人は、頭が良過ぎるのが裏目に出るの」とさりげなくスタッフに言う。鋭すぎる人間観察である。また「終電」を待つ太った中年女も出てきた。旦那さんは、厨房でひたすら料理を作り続ける。またこの旦那さんがママさんを愛して止まないのである。ふたりとも80歳近くなって、肉体が限界に達している。番組の収録中に旦那さんも倒れて、救急車で運ばれるアクシデントが発生した。ママさんも足が悪くほとんど歩けない状態。とうとう店仕舞いをする決意をする。そして閉店の日に客が集まり、ママさんと旦那さんは大祝福された。ふたりはできなかった旅行をする。最近の「ザ・ノンフィクション」で最高傑作だと私は思う。このママさんは非常に頭が良い。様々な悩める客に予想外のアドバイスをするからだ。人生の酸いも甘いも嚙み分けてきたこともあるけでども、持って生まれた「人間に対する洞察力の鋭さ」であろう。おそらく日本のどこかにこういう人間臭いママさんがわずかながら存在する。しかし令和の時代こういう人たちが絶滅危惧種になっているのではと私は危惧してならない。