NHKの「にっぱん縦断こころ旅」を見ていたら、火野正平が、冒頭で、森高千里の「雨」を口ずさんでいた。森高千里が歌うより、歌詞の一つ一つが、心に染み入った。ドラマのワンシーンのようで、さすが、プロの役者さんだと再認識させられた。歌の上手い下手の次元をはるかに超えていて、凡人が、真似できるようなものではない。火野正平と言えば、「にっぽん縦断こころ旅」で、自転車で全国各地を回っている、おじさとして、お茶の間の顔になった感がある。しかし、私の中では、もてる男のイメージが強い。イケてるおやじとして、吉田鋼太郎、リリーフランキーなどが挙げられる。取り立てイケメンではないが、彼らは、もてる。しかし、どこか、下心のようなものが見え隠れして、好きになれない。その点、火野正平は、ごく自然体で、打算的な所が全くない。数々の女優と関係を持ちワイドショーをにぎわした過去を持つ。どこか母性本能をくすぐるような雰囲気が、女性の心をわしづかみにするのだろう。役者としての実力も申し分ない。子役から出発し、数々のドラマに出演し、キャリアの長い役者さんである。印象的なのは、時代劇でのコミカルな演技だ。必殺シリーズにおいての火野正平は、他の役者では、不可能だったと思う。初期の頃の必殺は、過激な暴力シーンも多く、救いようがないドラマであった。作り手のプロデューサーたちも、あまりにもドラマが殺伐となるのを恐れ、コミカルな存在である火野正平を重用したのではないだろうか。日本映画界を代表する役者さんが出演するなかにあって、負けじ劣らずの魅力的な演技で健闘していた。役者というのは、大きく2種類に分けることができる。「自分以外の何物かになる」ことに秀でている役者。「与えられた、役にどれだけ近づいていくか」が、主要命題となってくる。もう一つタイプは、存在自体が、普通の人と違い、独特のオーラが生まれついて、備わっている役者。前者も才能を必要とされる。それ以上に後者のタイプは、努力では、埋め合わせできない。火野正平は、明らかに後者のタイプの役者である。「にっぽん縦断こころ旅」も良いけれど、映画、ドラマで、火野正平の魅力を発揮して頂きたいと思う。
