孤独死予備軍ひきこもり日記

ひきこもりが、日々の雑感を綴ります。

約30億の借金を抱えた 藤田まこと 私生活の不幸に負けずに 演じ続けた壮絶な役者人生

 

  藤田まことと言えば、「必殺仕置人」の中村主水あるいは、はぐれ刑事純情派安浦刑事というイメージが強い。俳優人生において、当たり役を得ることは、非常に恵まれたことである。藤田まことは、決して器用な俳優ではない。必殺仕置人も最初の頃を見ていると、ぎこちない演技で、念仏の鉄を演じる、山崎努の異常な存在感に食われてしまっていた。ところが、ほんのわずかで、中村主水という役柄が、藤田まことに乗り移ったかのように、藤田まことが「必殺シリーズ」において欠かせない存在になっていく。藤田まことの努力もあっただろうが、山内久司プロデューサーの先見の明である。山内久司プロデューサーは、別名「テレビドラマの神様」という異名を取る。ありきたりなドラマ作りを排して、挑発的で、深みのある作品を世に送り出した。藤田まことを必殺の主役に選んだ訳は、マニアの間ではあまりにも有名な話である。山内久司プロデューサーが、若手の時に、ラジオ番組を担当して、「舞台で明るい顔をするが、楽屋では、考え込んだ暗い顔をする、藤田まことに二面性を感じた」というエピソードである。冴えない同心の顔を凄腕の殺し屋の顔を使い切るという役柄は、非常に難しい。たいていの役者は、役を演じようとする芝居心が先行してしまうため、どうしてもリアリティに欠いてしまう。たとえ日本を代表する名優であっても。しかし、藤田まことは、ごく自然に、表の顔と裏の顔を持つ同心を演じた。特に、町方同心の立場であるため、依頼人が、権力のある者に虐げられても助けられず、責めを負う感じで、「視線を落とし、申し訳ないという気持ちを表現する」芝居は、藤田まことおいて他にできる俳優はいないのではないだろうか。しかし、藤田まことの私生活は決して順風満帆なものではなかった。まず、幼少期は母親と死別して、継母との関係に苦しむ。兄が戦死するなど、不遇な境遇であった。そして、必殺シリーズで俳優としての地位を確固たるものにしたが、借金地獄に苦しむことになる。夫人が、大阪北新地などで、飲食店、ブティッなどを手広く経営する。1987年には、京都嵐山に高級レストラン「嵐山主水」を開店させるとともに、大阪府豊中市に敷地面積380坪の自宅を建築。「主水御殿」と呼ばれた。しかし、バブル崩壊とともに、資金繰りに行き詰まり、夫人が振り出した手形約5000万円が、大阪市内の金融業者に出回り、自宅などを担保に約30億円の借金を抱えることになってしまった。その借金返済の中には、恐ろしい暴力団関係者もあったようであるが。そうした苦労がむしろ、藤田まことの演技をより一層深みのあるものにしたのではないだろうか。俳優は、私生活において幸せより不幸せであった方が、ある意味良いのかもしれない。