孤独死予備軍ひきこもり日記

ひきこもりが、日々の雑感を綴ります。

榊莫山 「これしかないわ」 三谷幸喜、司馬遼太郎も魅了させた自由人であり本物のアーティスト

榊莫山という書家がいた。関西の人でも、もう知らないのではないだろうか。20数年前宝酒造のCMの、「米焼酎、これしかないわ」というキャッチフレーズで、一躍有名になった。私は、このCMを見て、一気に榊莫山のファンになった。とぼけているが、人間臭い所が、何とも言えない魅力を感じた。榊莫山先生は、その後テレビに、引っ張りだこになる。千人のような外見と、味のある関西弁は、強烈なイメージを与え、テレビ局にとっては、美味しい「キャラ」だったのだろう。ただこの榊莫山先生は、ただの胡散臭い人間だけではなかった。大正15年に生まれて、戦後復員して、教員のかたわら、京都大学に入学して、美学を学ぶ。昭和21年に辻本史邑に師事する。順風満帆に書家としての道を歩み始めるが、2歳の長男を失くす。わが子の菩薩を弔うために、「般若心経」を出品するようになり、新な世界を模索する。師事していた、辻本史邑が亡くなった後は、書の組織から離れて、前衛的な作品を創作し始める。50歳を過ぎた頃に、故郷の伊賀に山居を構えて、畑仕事に精を出すようになる。その一方で、昭和52年には、文化大革命の余韻が冷めやらぬ、上海を訪れて、書の源流を探り、古典の研究の虜になる。壮絶な人生である。戦争体験、我が子の死を乗り越えて、自分のスタイルを確立していったのはまさに本物の芸術家である。不幸を糧にする所が、私たち凡人とは、一線を画する。そうした人生経験があったからこそ、滲み出る個性を発揮したのだと思う。最近のテレビに出てくる人たちが、面白くないのは、榊莫山先生のような人生経験をしていないからだと思う。大手芸能事務所のタレントが、何の力もないのに偉そうな顔をする。そして、一般視聴者も、それに対して違和感を感じることがない。これでは、テレビの世界が、ますます薄っぺらくなってくるだけである。榊莫山先生のように、飄々としながら、人生の酸いも甘いも知り尽くした本物の人間があまりにも少なくなったのは残念である。